今回は、円安と日本株についてお話したいと思います。
日本株は割安で放置されていると言われることがありますが、円安で株価が上がるのか、そもそも日本株はなぜ上がらないのか、についてお話しします。
今のアメリカの利上げや中国のロックダウンなどで、そもそも日本株は上がらないはずだと思われる方もいらっしゃると思いますが、そういった地合いの話だけでなく、もう少し基本的なお話をさせていただきたいと思います。
あまり難しい内容にはしないようにしましたので、ぜひ最後までご覧ください。
要点は以下の通りです。
- 日本株の上昇の現実的なラインは、TOPIXで2300まで
- 日経平均で32000まで
- 上昇を阻む要因は、急激な円安、業績、日銀、政治の4つ
- 円安は収益を改善し、外国人投資家を呼び込むことが期待できるが、急激な円安は外国人投資家の投資意欲を減退させる
- 日銀のETF購入方針の変更により、市場の先高観が薄れた
- 政治ビジョンの不透明感から、投資家の日本株への投資意欲が減退している
では、本編に入ります。
まず、日本株の株価を確認してみましょう。
過去の水準を見ると、現在のTOPIXは割安と言えます。
仮にPERが16.5倍まで回復すれば、TOPIXは現在より2割高い2276ポイントまで上昇し、日経平均は32000円まで上昇する可能性があります。
これは、他の多くの投資家やエコノミストが「日本株は割安であり、今後上昇する」と言っているように、特に珍しいことではなく、この値自体も現実からそれほどかけ離れてはいません。
しかし、そこまで上がらないというのが日本株の難しいところです。
次に、なぜ日本株が上がらないのかについてお話したいと思います。
1つ目は円安、2つ目は企業業績、3つ目は日銀の金融政策、4つ目は日本の政治です。
それぞれについて解説していきます。
円安と企業業績
まず、円安と企業業績について一緒に説明します。
先日の日銀金融政策決定会合後、130円を超える円高に驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。
では、円安は日本株にどのような影響を与えるのでしょうか。
一般的には、円安は輸出企業、特に日本からの輸出が多い企業の業績にはプラスに働くと言われています。
これは事実で、トヨタや日産などの自動車会社は円安の恩恵を受けることになります。
現在の水準では数千億円の利益増が見込まれますが、企業が海外拠点に生産をシフトしているため、円安の恩恵は過去に比べると少ないのも事実です。
日本の総輸出は、最近になってようやくリーマンショック前の水準に戻ったというデータもあります。
また、円安は輸入企業にもマイナスの影響を与えます。
ニトリなどの消費財メーカーが典型的な例です。
しかし、輸出産業は企業規模が大きいので、全体としてみれば円安はプラス要因です。
ここで重要なのは、円安のメリットの度合いが小さくなっているということであり、円安のメリットが全くないということではありません。
円安は業績に影響を与えるだけでなく、外国人投資家の投資を促進します。
2022年に入ってからの投資部門別の取引状況では、3月最終週以降、海外投資家は4週連続で買い増しています。
その理由の一つは、円安によりドル建ての日経平均がかなり弱くなっていることです。
円ベースでは3月上旬と同じ水準ですが、ドルベースではこの2カ月で10%以上下落しています。
これが海外投資家の資金を呼び込む要因になっています。
日本株の上昇には海外投資家の買い需要が欠かせないので、この傾向自体は悪いことではありません。
しかし、円安が行き過ぎると、海外投資家は日本株を敬遠する可能性があります。
株を買った後に円安が進めば、その株のドル換算額はどんどん減っていきます。
これは、私たちが円高の時に米国株を買うのと同じことですから、外国人投資家にとってはリスクとなります。
ですから、円安そのものはメリットがあるのですが、円安のスピードが速すぎて、投資家が日本株の購入に踏み切れないというのが、株価が上がりにくい要因の一つです。
また、円安で見かけの業績がよくなっても、その背景にある事業が拡大しなければ、株価上昇のモメンタムは高まりません。
個々の企業についてはいろいろな考え方がありますが、国として重要なのは、製造業をどう盛り上げていくかということだと思います。
自動車、電機、工作機械、精密機器、半導体などです。
というのも、一時期、日本には金融立国を目指すという流れがありました。
もちろん、東京をアメリカのニューヨークやイギリスのロンドンのような金融センターに発展させるという構想も重要ですが、現在でも国力の源泉が製造業にあるのは間違いありません。
この点については、数多くの学術研究が発表されていますが、第一次産業革命末期のイギリス、第二次産業革命から現在までのアメリカを見れば、比較的容易に理解することができます。
証券発行市場の活性化という金融的な視点とともに、ものづくり企業の活動を促進する政策やベンチャー支援、個々の企業のさらなる努力も必要でしょう。
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日銀の金融緩和
企業業績の上昇に伴って株価が自然に上昇するのは健全なことですが、日本の場合、日銀の金融緩和は以前から市場に影響を及ぼしてきました。
日銀はETFを購入することで株価を上げ、企業や人々の消費マインドを変えようとしてきました。
実際、2013年、2014年末、2016年半ばに、日本銀行はETFの買い入れを増やし、株価の上昇につなげています。
当時は、ETFを積極的に購入する方針でした。
これが2021年3月末に変わりました。
積極的な買い入れとは、日銀が市況に関係なくETFを買い続けるということであり、これは株価を上げるという意思表示です。
もちろん、日銀のETF購入が市場全体を構成しているわけではありません。
2021年末時点で日銀が保有するのは東証の株式市場全体の8%程度に過ぎません。
しかし、日銀が買ってくれるということは、投資家心理を改善し、市場全体を押し上げる要因になりました。
2021年3月、日銀は株式を随時購入する方針に変更しました。
これでも必要に応じて買っているのだからいいじゃないか、と思う人もいるかもしれませんが、「積極的に」という言葉と「必要に応じて」という言葉は全く意味が違います。
ただし、株価がどんどん上がっていくようなビジョンはもうありません。
実際、2021年はほとんどETFを買っていません。
そもそも人為的に株価を上げるのは不自然なので、本来は健全なことです。
しかし、これまでは日銀が率先して相場を押し上げてきたわけで、それが変わったのであれば、今後の見通しもポジティブでなくなってもおかしくはないでしょう。
個々の企業を見ると、業績がよくて株価が上がっているところもありますが、総じて日銀の力、というか、マーケットを引っ張る力が不足しているのです。
しかも、現在の量的・質的金融緩和はいずれは正常化します。
すでに2013年に入ってからかなり状況が変わってきていて、いつ来るかわからないXデーに対して強気になることはできないし、特に個人投資家が長期保有するのは得策ではないと感じる要因になっているのではないかというのが私の率直な感想です。
好きな会社の株を持ちたいというのであれば、話は別ですが。
政治
大きく分けて4つの論点があります。
一つ目は新資本主義、二つ目は自社株買いの規制、三つ目は四半期開示の廃止、四つ目は金融所得課税の強化です。
新資本主義
新資本主義とは、成長と分配の好循環によって分厚い中間層を復活させるという考え方に基づく政策です。
問題は、この新しい資本主義が具体的にどのようなもので、どのような具体策があるのかがわからないことです。
市場の立場からすると、中間層を回復させる過程で富裕層や企業にどれだけの悪影響が出るかが気になるところです。
法人税もそうですし、4つ目の金融所得課税もそうです。
このまま不透明な状況が続くと、日本株が割安であっても買う気になりません。
自社株買い規制
2つ目の自社株買い規制は、様々なステークホルダーを重視するという主旨のようですが、当時は政治が企業の経済・金融活動に介入するのではないかということで、かなり話題になったようです。
議論が停滞しているため、近い将来、具体的な施策が打ち出される可能性は低いと思われます。
四半期開示の廃止
3つ目に、四半期開示の廃止は、評価というか金融庁の話ですが、四半期報告書を廃止し、一つの決算報告書に集約する方針が示されました。
4月18日、金融審議会のワーキンググループでこの案が了承されました。
論点は、単体決算に監査法人によるレビューを入れるかどうか、中間監査付きの半期報告書を作成するかどうか、など。
内容はまだ検討中なので騒ぐ必要はないのですが、この案が出た当初は、現政権がまた何か言い始めたのではないかという疑心暗鬼があったようです。
金融所得課税の強化
そして最後に4つ目は、金融所得課税の強化です。
これは個人投資家から大いに顰蹙を買いました。
1億円を超えると一般的に実効税率が下がるという問題、「1億円の壁」の解消を目指した政策です。
要するに高所得者への課税が強化されるということです。
しかし、こういうことは具体的な施策で語られるわけではないので、国民というか個人投資家は、誰が対象になるのか、どこまで課税が強化されるのか、半信半疑の状態です。
この 4 点について言えること
正直なところ、4 つ目の具体策はまだ確定していないのだろうと思いますが、いずれにせよ、この 4 点について言えることは、コミュニケーションに問題があったのだろうということです。
1点目は政策ビジョンなのでまだいいのですが、2点目、3点目、4点目は観測気球とはいえ、あまりにも唐突というか、具体的なビジョンがないまま話題になってしまい、対話の手段としては不十分だったのではないかと思います。
個々の政治家の功罪や政治思想については、人によって様々な意見があると思いますので、ここでは触れませんが、株式市場との対話が今のところうまくいっていないことは誰が見ても明らかです。
上記のような様々な政策の不透明感が解消されれば、国内外の投資家が抱いている日本株に対するネガティブな姿勢も好転する可能性がありますので、日銀だけでなく政府にも大いに期待しています。
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まとめ
最後に、あらためてまとめたいと思います。
過去のPER水準から見れば、日本企業にはまだ上昇余地があることは間違いありません。
しかし、割安に放置されているのには、それなりの理由があります。
プロの投資家は日本株が割安であることに気づいていないのではなく、買わない理由があるのです。
個別企業で業績が拡大し、株価が上昇しているところもありますが、市場全体のモメンタムを改善するには、政府や日銀の役割が大きいので、いつ潮目が変わるのか、そしてそれが良い方向に向かうのか、悪い方向に向かうのか、見守り続けましょう。